
01 第5話『月精』 あらすじ
アニメ『薬屋のひとりごと』第5話では、異国の特使から「祖父が50年前に見た“月の精”に会いたい」という無理難題が持ち込まれる。困惑する壬氏(ジンシ)だったが、猫猫(マオマオ)は“月の精”の正体が、今は緑青館のやり手婆となった元・伝説の踊り子だと気づく。
やり手婆が語る当時の接待の様子と、特使の祖父が自国で描かせた“月の精”の絵。その記憶は、後宮内の桃園とつながっていた。猫猫は偶然出会った女官・子翠との会話をヒントに、月夜の舞を再現するための秘策をひらめく。
そして迎えた宴の夜、月光に照らされた庭に幻想的な“月の精”が現れる――
猫猫の知恵と仕掛けにより、特使の願いは美しく叶えられていく。
後宮に隠された過去と記憶、そして華やかな外交の裏にある静かな知略が交差する、第5話の見どころをぜひチェック。
02 ネタバレ
猫猫は寝床で50年以上前に描かれたやり手婆が舞っている絵をまじまじと眺めながら思う。
-噂はたいてい脚色されながら広まるものだ。広範囲に伝わるほど、事実から遠のいて噂が一人歩きしてしまう。この世の伝承や神話なども似たようなものなのかもしれない。
そんなことを考えながら月夜を見上げる。
猫猫は紅娘に見送られながら翡翠宮を出て、後宮の北側にやってきた。北側には荒れた果樹園(桃園)、その近くに古い廟(びょう)らしき建物と池がある。昔、このあたりは別の民族が住んでいたそうだが、残された建物や外壁や地下水路は今も利用されている。
下見をしていると、ふいに背後から目隠しをされた。
「だーれだ?」
小蘭のだべり友達の子翠だった。この女官がまた、かなり人懐っこい性格をしている。
-「猫猫、こんなところで何してるの?」
-「子翠こそ、どうしたの?」
子翠の質問に質問で返すと、「ちょっと用があって」とにんまり笑う。
猫猫は桃園の桃を見て、
-「つまみ食い?」
-「違うよ、これこれ」
子翠が猫猫の手のひらに葉っぱをのせた。その葉っぱをめくると、幼虫が入っていた。
-「うっ・・・」
-「これ、普通嫌がらせにとられるから、やらない方がいいよ」
なんで?可愛いのに、と子翠は幼虫を虫かごに入れる。
子翠いわく、この場所は図鑑でしかみたことのない虫がたくさんいるんだよ、と上機嫌だ。
昔から交易をやっていた土地だから異国からの交易品に虫が混じって繁殖したのだろう。
虫かごには他の種類の蛹(さなぎ)が入っている。
-「これ、蝶になるの」
ー「蛾だよ。夜行性だから成虫は昼間飛んでないけど、きれいな蛾なんだよ」
昔、やり手婆が特使の前で舞を踊ったときもいたのかな、考える。
-「猫猫も夜見にきなよ。月明かりにふわふわと反射して、桃源郷に迷い込んだ気分になるから」
そんな大げさな、と言いかけて思いついて子翠にに尋ねる。
-「この蛾は羽化したらすぐに交尾をするの?」
ー「するんじゃないかな。成虫になるとごはんが食べられないからすぐ信者んらしいから」
続けて尋ねる。
ー「この蛾の雄雌の区別ってできる?」
できると思う、という子翠の言葉を聞いて猫猫は、異国の特使を虜にしたやり手婆の舞を再現できるかもしれないと思った。
子翠の両肩に手を乗せ、「手伝ってもらいたいことがある」と言った。
その迫力に気圧された子翠はこう言った。
ー「悪いこと?」
猫猫はすぐさま壬氏にその計画について話すと、急ピッチで宴の準備が進んだ。猫猫は、子翠と小蘭に協力してもらい、蛾の成虫や蛹をできる限り採集した。
数日後の夜、50年前と同じ北側の庭園で宴が催された。
男子禁制の後宮だが、今回は特例として男性官吏の立ち入りが許可され、上級妃たちも参加することになった。
出席者は各自馬車の中から宴を楽しむ。
猫猫は少し離れた木々の隙間からその様子を見ていた。青い瞳に金色の髪。遠巻きからみても二人の特使は美しかった。やはり、下手な役者を当てられない。馬車には御簾がかけられているが、二人の特使は御簾を上げて帝に顔を見せているのは自信の表れだろう。いとこ同士二人はとてもよく似ているが、手前の美女は自分より美しい者はいないという自信に満ちている。とにかく、二人の特使が上級妃たちに張り合える美貌の持ち主であることは間違いない。
銅鑼(どら)を合図に宴が始まった。特使に合わせた派手な演目だったが、当の本人たちは退屈そうだ。特に手前の特使はあざ笑うような表情にもみえる。
いとこ同士だというが、双子のようによく似ている。二人なら、高順に相談された鏡の話も可能かもしれない。
そんなことを考えていると、なんと手前の特使が立ち上がり、馬車を降りたのだ。そのまま堂々とゆっくり歩みを進め、皇帝の馬車の前に立ち、声をかけた。
ー「ごきげんよう、せっかくの宴ですのに、こんなに離れてしまうなんて」「もう少し近くでお話をしたいです」
姶良(アイラ)という名の特使は続ける。
ー「今日は皇弟様はご欠席だとか。ぜひお会いしたかったです」
帝の馬車の左右に座している梨花妃と玉葉妃には全て聞こえている。
場所の外にいる侍女頭の紅娘は感情を抑えているようにみえる。
その光景を目の当たりにし、猫猫は率直に「これは怖い」と思った。
特使の外交の目的は皇帝とその皇弟の寵愛を受け、婚姻関係を結ぶという思惑があるのだろう。
非礼も気にせず、「もしよろしければ」と続けようとしたとき、もう一人の特使の愛凛(アイリーン)が引き留めた。
失礼しましたといって、引き下がる姶良だが反省している様子はない。
ひやひやしたが、なんとかおさまったようだ。
特使たちは祖父が見た絶世の美女になど興味がないのかもしれない。誰よりも自分の方が美しいという自信があり、上級妃4人に姿見を贈ったのも嫌味だったのかもしれない。
別にどうでもいい。猫猫は自分の仕事をを終わらせることに集中しよう。
高順が待つ小屋へ向かい、中に声をかける。
ー「そろそろ宴が終わりそうですが、準備はよろしいでしょうか」
ー「できるだけのことはやりました」
答えたのは、どこか気まずそうな高順だった。
高順の隣にいる人物をみて、納得した。
-「まぁ、そんな反応になるわな…」
ではいきましょう、と言って黒い布をかぶったその人物の手を取る猫猫。
庭園では宴がお開きとなり、主賓である特使の馬車が移動を始めた。
場所の中で姶良が宴の感想を述べている。
-「私たちに合わせて音楽は派手にしていたけど、踊りは大したことなかったわね。上級妃たちも御簾から顔も出さないし、おじい様見た月の精とやらもどれほどのものか」
愛凛は「ここで話すことではない」と姶良をたしなめるが、次の瞬間姶良の軽口が止まる。
特使たちは、馬車の外の猫猫の存在に気が付いた。
その瞬間、猫猫は隣にいる人物から黒い布をはぎ取った。姶良と愛凛は息を飲む。
その下から現れたのは長い黒髪が風になびき、ティアラを被った絶世の美女であった。ふわりとひれが舞い、ひれをしなやかに揺らしながら舞うように歩く。その身に数百の淡くキラキラとした光がまとっている。
満月と夜空に舞う淡し光を背に、妖艶な笑みを浮かべながらひれをなびかせ踊る月の精。
自分に絶対の自信をもっている特使たちは目の前の美女から目が離せない。
50年前の特使が見た景色はこれだったのではないか、と猫猫は思った。
そして、沢山の花びらが散った瞬間、月の精は消えた。
姶良が馬車を飛び下り、異国語で猫猫に詰め寄った。
ー「ディアーナ」と西方の国で伝わる月の女神の名前をささやきながら月に向かって人差し指を突き上げた。
愛凛が姶良をなだめ、馬車へ戻っていった。
発音が不安だったが、通じたみたいでよかった。
高順が待機している建物へ戻るとすでに成功の報告を受けているようだった。
ー「思ったとおりの演出になりました、月明かりしかない暗闇で黒い布を剥げば、急に現れたように見えたでしょう。」
だが、一番の決め手は『蛾』だった。
高順と一緒にいた官たちが持っている虫かごには薄緑色の大きな蛾が入っている。やり手婆の絵には淡い光が描かれていた。その正体がこの蛾だった。ばあさんは衣装に虫の死骸をこすり付けられる嫌がらせをされたと言っていた。虫の中には、異性を惹きつけるためににおいを発するものがいる。こすり付けられた死骸は雌で、そのにおいに寄って来たのが雄だったのだ。その姿が光をまとった月の精に見えたというわけだ。
何たる偶然。演出のために、幼虫と蛾の採集に手伝ってくれた子翠と小蘭にお礼をしなくては。
あの光景は、特使以外に見せないようにするのに苦労した。あらかじめこちらが用意した御者に、絶対にそれを見ないようにと言いくるめておいた。もし何かあったらすぐに対処できるよう高順たちがそばで待機していた。
あの光景は誰にでも見せる代物ではない。国を傾けるくらいの破壊力をもっている。
ー「おい!言われたとおりにした後は放置か」とずぶ濡れでむすっとしている壬氏。
月の精の舞が終わったあと、重い衣装を着たまま池の対岸まで泳いでいったのだ。
うまくいったのか、と訊く壬氏に、特使の要望にこれ以上ないくらい応えられたと思いますと告げる。
そうか、といいつつ、「あとは知らんからな」と機嫌が悪い。
-「まだ髪が濡れているぞ!」と壬氏が言った。高順が猫猫に目配せをする。
やれやれ、自分でやればいいのにと思いつつ手ぬぐいで壬氏の髪を拭きはじめた。
特使の寝屋で姶良が灯りもともさず座っている。
ー「なら、いいわ」とつぶやく。
日常に戻り、洗濯場へいく猫猫。そこに小蘭が駆け寄ってきた。
ー「これから手習所なんだ」
以前から壬氏たちが計画していた手習所が始まったようで、小蘭は1期生となった。
頑張ってね、と小蘭を見送った。
猫猫は洗濯物を置いて木陰にに腰掛けた。
翡翠宮に戻っても大した仕事はなく、医局にいってもやぶ医者は香油の件でごたごたしていて忙しそうだ。
ーあの香油事件はまだ方がついていない。ひとつひとつは微量でも組み合わせ次第では危険だ。問題はそんなものを誰が持ち込もうとしたのか。
壬氏の調査では、どの宮でも大量に香油を購入していたことがわかっている。翡翠宮の侍女たちも例にもれずだ。微量でも毒のあるものは処分させられた。
壬氏は特使たちの関与を疑っていたが、彼女たちは妃の座を狙っていたと思うが、今は月の精と帝に相手にされなかったことでプライドはずたぼろうだろう。
現在、後宮には4人の上級妃がいる。
ー親の権力関係からいうと、楼蘭妃が最も重要視されるべき存在だ。父親の子昌(シショウ)は先代の皇帝時代から重用されていた寵臣だ。帝は定期的に通っているようだ。
次に親の位が高い梨花妃は帝の母方の親戚であることもあり、出世にがっつく性格ではない。東宮を亡くし、自分も病に伏せていたが、回復したあとは再び帝の寵愛を受けている。
逆にここ数代でのし上がってきたのは里樹妃の実家は先代の皇帝に幼い娘を差し出すほどの野心家だが、まだお手つきになっていないようだ。
そして玉葉妃は帝の寵愛は最も大きいが、娘の鈴麗公主を授かり、今再び帝の子を身ごもっている。西方にある実家は交易の拠点ではあるが、痩せた土地なので豊かとはいえないという。昨年園遊会でおきた毒殺未遂事件。あれは前妃の阿多妃の侍女頭が里樹妃を狙って独断で起こしたものだった。その動機は権力のためではなく、いかにも人間らしいものであった。だが、それより以前に起きた鈴麗公主がお腹にいると玉葉妃に毒を盛った犯人は誰だったのか。紅娘も言っていたが、先日の毒キノコ事件の中級妃・静妃である可能性はある。だとして、静妃はどこで毒の知識をどこで手にいれたのか。
ー翠苓(スイレイ)…。一度死んで蘇り、逃走した女官。いまだ彼女については分かっていない。
なにが目的なのか、なぜ壬氏を狙ったのだろうか。
ただの侍女がこんなことを考えてどうする。というわけで考えるのをやめて、気分転換することにした。
後宮内を散歩している途中、向かいから水晶宮の侍女たちがやってきたが、猫猫の顔を見るとおびえるように逃げてしまった。香油事件のとき、においを嗅ぐために服をひんむいたのが効いたらしい。侍女たち全員が逃げ去ったと思ったら一人の侍女が残っていた。水晶宮の中でめずらしく香油をつけていない侍女だと記憶していた。
翡翠宮の食堂では愛藍が体調を崩しぐったりしている。猫猫が愛藍の額に手を当てると、微熱があるようだった。玉葉妃たちにうつったらまずいので、薬を作ったあとに診療所へ連れていくことになった。
猫猫は知らなかったが、診療所は後宮の北側にあった。洗濯場が近いことは服や敷物を頻繁に洗えて、衛生面にとっても合理的である。愛藍は近くにいた中年の女官に「風邪を引いた」と伝えると、額に手を当て舌を確認し、「2~3日無理をしなければ大丈夫だろうけどどうする?」と訊いてきた。やぶ医者よりよっぽど手慣れているし、見立てもしっかりしている。愛藍は妃にうつすとまずいので今夜は念のため診療所に泊めてもらうことにした。
部屋に案内してもらう廊下でアルコールのにおいがする。消毒されていて清潔な証拠だ。窓が多く、換気もされているし、掃除も行き届いている。療養には最適である。
部屋に案内されると、愛藍は「明日には戻ると伝えて」といって部屋に入っていった。こんなところがあったとは、と猫猫が興味深く入口から部屋の中をのぞいていると、後ろから案内してくれた中年の女官に首根っこをひっぱられた。
ー「あんたは仕事に戻んな。付き添いだからってさぼれると思うんじゃないよ」
そんなつもりはないのだが…。
ー「なんだい、それともここの洗濯物を全部たたんでくれるかい?」
山積みになった洗濯物を見て、「失礼しました」といそいそと退散した。
やはり、おばちゃんには勝てないなとつくづく思う。
帰り道、周りを見ると診療所で働く女官が年かさのいった者が多いと気づいた。
後宮では年をとると、半強制的に入れ替えさせられるが、診療所では経験と知識が重宝され長く残されているのか…とよそ見をしながら歩いていると、何かにぶつかった。
ー「独り言をぶつぶつ言いながら歩くな。転ぶぞ。」
壬氏と高順だった。
ー「どこへ行っていた」
ー「診療所です、あんなところあったんですね」
後宮に入ったときに、一通り案内してもらったようだが、人さらいに後宮に売られてきたばかりでふてくされていて聞いていなかったのかもしれない、と伝えると壬氏は申し訳ないという顔をした。
壬氏はこの話をすると深刻な表情をする。
ー「思った以上によく出来た場所ですね、むしろあそこを医局にするべきでは?」
ー「それができれば苦労しない」
なぜなら、男しか医官になれないからだ。
簡単な処置ならよいが、大けがの処置は医官しかできない。薬を煎じていいのも医官だけである。
ー「?では、私はどうなるのですか?」
ー「目をつぶっているということだ」
なにやら複雑な事情があるのだろう。
壬氏はつぶやく。
ー「これからのために、もっと違う形で医官を調達できればいいのだが」「宦官がいなくてもできるように」
今の皇帝になってから宦官となる手術は禁止された。つまり、後宮の人材が枯渇していくのは必然だ。壬氏の年齢からいって、手術は禁止となる前だろう。気の毒に、あと数年あれば…。と手を合わせる。
そこで、高順が仕事がつかえますと間に入り話が終わった。
去り際に壬氏が猫猫に「薬を煎じていることを他者に知られないように」と釘をさしていった。
愛藍は診療所で猫猫が煎じた風邪薬を飲もうとしてた。
そこに部屋に案内をしてくれた中年女性が部屋に入ってきた。
ー「それは薬だね、さっきの下女から薬のにおいがした。あの下女、隠れて薬を作っているね」
その頃、何事も知らずに猫猫は自室で薬を煎じていた。
03 伏線と考察
「薬屋のひとりごと」2期 第5話は、猫猫の冴えわたる知略が光る、まさに“魅せる”一話でした。伝説の「月の精の舞」の謎を、蛾の習性という科学的根拠に基づいて解き明かした猫猫の発想力には、まさに感服です。満月を背に舞い、数百の淡い光をまとった壬氏の姿は、息をのむような美しさで、映像としても非常に印象的でした。
二人の特使の目的は皇室との血縁関係を築くということだと思われるますが、外交儀礼を無視したアグレッシブなアプローチで手段を択ばない大胆不敵さ、怖いですよね。上級妃たちへ姿見を献上したのも、間違いなく挑発でしょうね。帝の気が引けなかったこと、月の精の美しさにプライドが傷つけられたのはスカッとする思いもしましたが、今後どのような行動に出てくるのかも注目点です。
今回気になったのは、いくら虫好きだといっても子翠が「北側」に来過ぎじゃない?ということでしょか。そもそも、職場はどこなんだろうか。
明るく、人懐っこいけどミステリアスな存在であります。
そして、1期で壬氏が暗殺未遂にあった事件。猫猫は、行方不明の女官・翠苓が何らかの形で関係していると考えているようです。特使たちと繋がりがあるのか、ないのか気になります。
次回、猫猫が薬を煎じていることが診療所の女官にバレたことで何が起きるのか。ますます目が離せないですね。
第6話はこちら